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アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融。人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『ガーデン・ロスト』紅玉いづき/4人の少女が迎える季節と儚い花園

読書/書評 読書/書評-小説

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本作品を知るきっかけとなったのは、Amazonでとある本を探していた時に「この商品を買った人はこんな商品も買っています」のコーナーに掲載されていた事でした。

小説は基本的に古書店で買う事が多いのですが、Amazonで本を探すことは日常茶飯事だったりします。

その時は、どこか壊れそうな少女のイラストが目に焼きつき、ほしいものリストに追加するに留まりましたが、先日本屋さんで偶然背表紙が目に止まったため、購入/読了しました。

誰にでも、失いたくない楽園がある。息苦しいほどに幸せな安住の地。しかしだからこそ、それを失うときの痛みは耐え難いほどに切ない。誰にでも優しいお人好しのエカ、漫画のキャラや俳優をダーリンと呼ぶマル、男装が似合いそうなオズ、毒舌家でどこか大人びているシバ。花園に生きる女子高生4人が過ごす青春のリアルな一瞬を、四季の移り変わりとともに鮮やかに切り取っていく。壊れやすく繊細な少女たちが、楽園に見るものは―。

少女4人の失花園

ありふれた高校時代。

4人で作られた放送部と言う名の少女の花園。

お人好しのエカ、恋する乙女のマル、かっこいい女性のオヅ、大人っぽくも口が悪く体の弱いシバ。

これ以上も以下もないと、新入部員の入部を拒み続けてきた花園は、少女たちの時間と共に徐々に失われていく。

『春の繭』エカの場合

頼まれごとは断れない性格。お人好しのエカ。

お人好しと呼ばれる、その品行方正な性格には訳があった。「人に嫌われたくない。」

雑誌の文通コーナーを通じて知り合った、顔も知らない手紙の相手、ユーリ。そして、その手紙にいつも寄せ書きのあるユーリの幼馴染、春日井くん。

顔も知らなければ、電話で話をしたこともない。ましてや実在するのかも分からない、文通相手の幼馴染にエカは恋をする。

君しかいない、と手紙の中で春日井くんが言う。ユーリを救えるのは私だけ。そうであればいいと思う。そうであったならどんなにいいだろう。
私の紙と字は、誰かを救えるのだろうか。(39ページ)

無垢な少女の無策で不毛な行為は、どこかの誰かのためになるのだろうか。

『チョコレートブラッド』マルの場合

恋多き少女にしてエカの親友マル。

あざとい容姿と、幼い言動から放送部以外の学校の男女からは嫌われている。

しかし、漫画や俳優をダーリンと呼ぶ以外にも、男の影が絶えずチラつき、現に多くの男性と付き合っては別れるを繰り返している。

優しくしてほしい。

ねぇ、あたし、こんなに、チョコレート色の血をしているのに。
こんなところで、こんな風に。生まれてはじめて。
----人を好きになんて、なりたくなかった。(123ページ・124ページ)

マルはやがて本当の恋に目覚める。

『echo』オヅの場合

まるで綺麗な男のような容姿のオヅ。

女の子らしい格好にずっと憧れていたものの、自分には似合わない。人を好きになるというのはどういう事なのだろう。

かつてオヅのスカート姿を見て笑った、近所に住むバンドマンのエイ兄は東京へ出ていくらしい。

それは特別なことだろうか。自分はつらいだろうか。エイ兄のことを、好きだっただろうか。
自分は誰かを好きだっただろうか。(142ページ)

少女らしさの無かった少女は、やがて少女らしさを取り戻していく。

『ガーデンロスト』シバの場合

受験の失敗は人生の失敗。高学歴でなければ不幸になる。

教育に厳しい母の言葉を一心に背負い、受験のために勉強に打ち込シバ。

受験のストレスと、幼馴染の高良とマルの関係に傷つきながらも、少しずつ確実に、大学受験の日は近づいてくる。

しかし、受験が近づくということは、華々しい高校生活にも終わりが近づいている、という事でもあった。

春なんて、こなくていい。嗚咽を上げて泣きながら、子供に戻ってわたしは泣いた。
あんた達のいない、春なんて。
なんども飽きるほどに、同じ春が巡ってくると思っていたのに、次の春を受け入れることは出来なかった。だってもう、かえれない。
もうわたし達の花園にはかえれない。

【総合的な感想】子供と大人の境目に立つ少女たちの景色

著者のあとがきにもありましたが、失楽園というよりは失花園という表現が正しい、少女たちの花園。

恋愛小説のように息苦しくなるような熱愛もなければ、青春小説のような少年少女の若さが放つ眩しさも、フィクションとして驚くような出来事も、特にはありません。

ただ、小説にははっきりした起承転結や分かりやすいテーマというものが、必ずしも必要ではないと私は思います。

本作品は、4人の少女に流れる4つの季節の日常を、それぞれの少女の視点と内面から切り取った、一種の絵画的な小説のように思えます。

つらつらと、思春期の少女たち抱く一瞬の喜びや苦悩が活字で表現されており、風が吹けば飛ばされてしまいそうな、短い少女時代の美しさと儚さを感じる作品でした。

ガーデン・ロスト (メディアワークス文庫)

ガーデン・ロスト (メディアワークス文庫)