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アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融、人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『潮騒』三島由紀夫/波打ち際に感じる官能的で繊細な海の音色

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近ごろあまり小説を読まない友人から、三島由紀夫の小説をゴリ押しされています。

三島由紀夫といえば戦後の日本を代表する文豪で、私もずっと読みたいと思っており、今年に入って彼のエッセイ『不道徳教育講座』で衝撃を受けたところでした。

三島由紀夫も如何せん発表している作品数が多く、小説は何から手にすれば良いのか悩みましたが、古書店でふと目に入った1冊から読み始める事にしました。

その私にとって記念すべき1冊目の三島由紀夫小説が本作品『潮騒』です。

文明から孤絶した、海青い南の小島――潮騒と磯の香りと明るい太陽の下に、海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。人間生活と自然の神秘的な美との完全な一致をたもちえていた古代ギリシア的人間像に対する憧れが、著者を新たな冒険へと駆りたて、裸の肉体と肉体がぶつかり合う端整な美しさに輝く名作が生れた。

若者の漁師が主人公

父を戦争で亡くし、海女である母と12歳の弟を養う、18歳の若者・久保新治。

今日も1日の漁を終え、燈台で暮らす燈台長へ採れた魚を届けに行く道すがら、一人の見知らぬ少女に出会う。

人口1400人程度の小さな島では知らない人間は一人もおらず、余所者とひと目で分かるが若者は少女をまじまじと見つめるが、一方の少女は若者に目を向けない。

その場はそれでやり過ごした若者だったが、だんだん少女の存在が気になりはじめ、寝付きの良いはずの夜も中々眠ることができなかった。

後から聞いたところによると少女は、島一番の金持ちだが男の子宝に恵まれなかった家が、島の村で格式のある家の男を婿として迎えるために、島へ寄越した娘だった。

三重県・鳥羽市の歌島(神島)が舞台

本書を読み進めるまで全く意識しておりませんでしたが、本作品は私の出身県である三重県を舞台としております。

三重県は縦に長い県で、歌島(神島)は私の生まれ故郷である四日市市から遠く南に位置する鳥羽市に実在する島です。

言うまでもなく『潮騒』は著名な作品ですが、恥ずかしながら本作品を読むまではそのような島の存在すら知りませんでした。

しかし、出身県を舞台にしているということで、特別な思いをもって読むことが出来たのも事実です。

一人の少女を巡る静かな争い

恋愛小説というよりも純文学の作品という色あいが非常に強い本作品ですが、一人の少女を巡る名門出身と貧困家庭出身の男同士の争いがみどころです。

男同士の争いというと仰々しく聴こえますが、まるで波打ち際の潮騒のような静けさで、それでも大胆な抗争がここにあります。

男同士/女同士でも、恋愛を巡るドロドロとした争いはテーマとして好きではありませんが、そういった女々しさは一切有りません。

貧乏人は金持ちに勝てないのか

色恋以外のテーマとして、主人公である苦労を知る貧乏な若者と、苦労を知らない名門の生まれである若者の男の誇りをかけた戦いが挙げられます。

もちろんこれも、拳と拳をぶつけ合うようなマッチョな戦いではなく、ひとつの海を舞台とした誠実さの戦いです。そういう意味では『潮騒』という表題はとても上手いというか、(何者でもない私ですが)激しい嫉妬を覚えるくらいマッチした表題です。

同じ性と同じ年月を重ねた者達がぶつかり合う時、弱い立場の者を応援したくなり、我々のその祈りが成就された時に感じる喜び/感動を紙に触れる指先を通して肌で味あう事ができました。

あまり言及し過ぎるとネタバレになってしまいますが、本書の解説がそれらの全てを指していると言えます。

何はともあれ、大文豪の作品というのは大衆文芸とは一線を画するものが有るのは確かです。

潮騒 (新潮文庫)

潮騒 (新潮文庫)

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