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アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融。人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『君の膵臓をたべたい』住野よる/タイトルの意味を知る時、号泣する

読書/書評 読書/書評-小説

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何か心境に変化があったとかそういう事は特にないのですが、今年に入ってから、恋愛小説をよく読むようになりました。

今回読んだのは、住野よる『君の膵臓をたべたい』。本作品は恋愛小説として取り扱っていい物か分かりません。高校生ならではの青春も感じますが、それらを手放しに礼讃しているかというと、そうでもありません。

カニバリズムチックな衝撃的タイトルですが、タイトルだけに惑わされず、誰にでも読んで欲しい感動できる小説です。

偶然、僕が病院で拾った1冊の文庫本。タイトルは「共病文庫」。
それはクラスメイトである山内桜良が綴っていた、秘密の日記帳だった。
そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて――。
病を患う彼女にさえ、平等につきつけられる残酷な現実。
【名前のない僕】と【日常のない彼女】が紡ぐ、終わりから始まる物語。
全ての予想を裏切る結末まで、一気読み必至!

もしもクラスメイトがもうじき死ぬのなら

あれは四月のこと、まだ、遅咲きの桜が咲いていた。
医学は、知らない間に進歩していた。それは僕だって詳しいことは何も知らないし、知る気にもならない。
ただ言えるのは、医学は少なくとも、命に関わる大病を患って余命が一年未満という少女が、誰にも異常を知られずに日常をおくれるくらいには進歩していた。つまり、人はまた人として生きる時間を延ばす能力を得た。(16ページ〜17ページ)

本作品のヒロインである山内桜良(やまうち・さくら)は、膵臓の病気で約1年後には死んでしまう過酷な運命を背負っています。しかし、当の本人はそんな様子はおくびにも出さず、明るく自由奔放にクラスで立ち振る舞う。

小説の世界では、人が死ぬ事自体は不思議なことではありません。しかし、死ぬまでの過程や、登場人物の背景次第で、同じ死が全く別のテイストになります。

いわゆる感動モノの小説では、幸福な日常の一変、あるいは徐々に死に向かいゆく日常といったストーリーが多いと思います。本作品は、どちらかというと後者の物語構成を採っているのですが、異質な点が一つあります。

それは、ここに恋愛というファクタが欠落している事です。

奇妙で一方的な仲良しの関係

クラスで人気者の女子高生・山内桜良と、目立たない主人公【地味なクラスメイト】の僕。

リアルの世界ではおおよそ混じり合うことのない二人が、病院で起こった偶然の連続で急接近する。盲腸の手術の抜糸のため、学校を休んで病院へと足を運んだ【僕】は、病院の待合室のソファに書店のカバーがついた文庫本の忘れ物を発見する。

本好きが講じてふと開いたその本には、印刷された活字ではなく、手書きの文字が書き連ねられていた。

『20XX年 11月23日
本日から、共病文庫と名付けたこれに日々の想いや行動を書いていこうと思う。家族以外の誰にも言わないけれど、私は、あと数年で死んじゃう。それを受け止めて、病気と一緒に生きる為に書く。まず私が罹った膵臓の病気っていうのはちょっと前まで判明した時にはほとんどの人がすぐ死んじゃう病気の王様だった。今は症状もほとんど出なくできて……』(18ページ)

そして病院で声をかけてくるクラスメイト。偶然病院で見かけたから声をかけたのか。

「それ、私のなんだ。【地味なクラスメイト】くん、どうして病院に?」(19ページ)

しかし、そうではなかった。

友達もいない、人に興味のない僕は【地味なクラスメイト】から【秘密を知ってるクラスメイト】へ、そして山内桜良から一方的な【仲良のいいクラスメイト】へと発展してゆく。

男女間の友情、あるいは恋人未満の何か

一方通行の友情、あるいは愛情未満の感情を、残り少ない命の中、一心に【仲良し】の僕へ注ぎ続ける山内桜良。

第三者から見るとおおよそ恋人同士としか思えない二人の行動(ただし、全て桜良が企てたもの)だが、お互い恋愛感情は無いという。

それは、お互いやがて近い将来、桜良が死んでしまうことを認識しているからではなく、【僕】は桜良に振り回され、桜良は【僕】を振り回すという、友情以上恋人未満の何か。

【総合的な感想】共病文庫を開く時、号泣する準備はできていた

ネタバレでも何でもなく、山内桜良は死にます。これは冒頭の1ページ目からすでに決定されていた事です。

しかし、ラストへ向かう道すがら、とても桜良が死ぬとは信じられず、それでも不運にも桜良は死んでしまいます。

そして、1章から続く【僕】と桜良の短い季節が終わり、桜良の元を訪れた【僕】が遺された共病文庫を開き、とある真実を知った時、静かに号泣してしまいました。

この時、私は出張でホテルに居たのですが、人目に付かない場所に居て本当に良かった。それは、来年30歳になる大の大人が突然人前で号泣してしまう事を恥ずかしいと思うからではなく、思う存分一人で泣けたからです。

なぜ、山内桜良は【僕】を振り回したのか。なぜ、【僕】はそんな桜良に恋愛抜きで付き合ったのか。最後には全ての疑問が解けます。そして、それからの【僕】についても。

ヒロインから日々明るく強く暮らしていく勇気をもらいました。「うわははっ」彼女の笑い声が、夏の空色とともに私の心に鮮やかに残っています。(20代 男性)

これは、帯に寄せられた一言の感想ですが、強く共感できるものです。私の脳裏にも、彼女の「うわははっ」という笑い声が今でも思い出しては、木霊します。

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

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