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『凶気の桜』ヒキタクニオ/怒りを暴力でしか表現できない若者達

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随分昔にマンションから飛び降りて入院した俳優、窪塚洋介が主演した映画の原作が本書『凶気の桜』(映画も同様のタイトル)。

映画版自体はまともに観賞したことがありませんが、何となくVシネマ的暴力に満ちた作品だったように記憶しています。高校の頃の記憶ですので、ともかくまともに覚えていません。

少々悪趣味かもしれませんが、山本英夫の漫画『殺し屋1』など、暴力的な作品は嫌いではありませんので、ふと、最近そのような作品を読んでいないと思い、本書『凶気の桜』を手に取りました。

怖い大人がいねかえら、脳ミソのぱさついた阿呆がのさばるんだ。生まれて来て、すみません、って思いを味わわせてやる―。渋谷に若きナショナリストの結社が誕生した。その名はネオ・トージョー。薄っぺらな思想ととめどない衝動に駆られ、“掃除”を繰り返していた彼らは、筋者の仕掛けた罠にはまっていた。『時計じかけのオレンジ』の冷笑も凍りつく、ヒップなバイオレンス小説。

ネオ・トージョーとは

渋谷に誕生した結社『ネオ・トージョー』

東京の渋谷を本拠地とする、山口・市川・小菅の3人で構成される暴力結社(暴力団ではない)。図らずとも彼らの反感を買った者たちは、略奪・強制・排泄の大きな力でねじ伏せられてゆく。

ネオ・トージョーの「トージョー」は東條英機の名前から。

1948年(昭和23年)12月23日)は、日本の陸軍軍人、政治家。階級位階勲等功級は陸軍大将従二位勲一等功二級。現在の百科事典や教科書等では新字体で東条 英機と表記されることが多い。
陸軍大臣、内閣総理大臣(第40代)、内務大臣(第64代)、外務大臣(第66代)、文部大臣(第53代)、商工大臣(第25代)、軍需大臣(初代)などを歴任した。
【出典】東條英機 - Wikipedia

なお、本作品では、東條英機そのものに言及はあまりなく、言わば「アメリカに侵略される前の日本」の象徴として名前を借りているだけの様で、物語の冒頭から下記の通り述べられています。

ネオナチという言葉を聞きかじった一人が「日本人なら東條英機だろうよ」と半分は思いつきで呼び始めた。何故、もっと若者らしく、おどろおどろしい名前にしなかったのかといえば、それは薄っぺらではあるが、ナショナリズムと呼べるようなものが三人の中にもあったからである。(8ページ)

崩れゆく水平関係

やり場のない怒りのエネルギーを強制に置き換えて、外国人の手でクスリが取引されていると噂のクラブを襲撃した3人。

強制を執行した悦に浸る3人だったが、街を取り仕切る2つの暴力団の抗争の火種となってしまった。

暴力団に直接所属している集団ではなかったネオ・トージョーだったが、ゆっくりとヤクザの魔の手は忍び込んでいた。

上下関係の無いはずの結社と言う名の水平関係だったが、このクラブの襲撃からそれまでの関係が徐々に崩れゆき、やがて彼らは取り返す事の出来ない事態へと巻き込まれてゆく。

凶気の桜の意味とは

マルチな才能を発揮する著者・ヒキタクニオがどこまでタイトルに意味を持たせたかは分かりません。

ただ、春の訪れ、優しく儚げな桃色の花を咲かせる桜に似つかわしくない「凶気(狂気)」という言葉を抱き合わせて装飾したのには、本作品がピカレスク(悪意)的な色彩を持った作品だからと推察します。

「狂い咲き」という言葉があるように、後先を考えず、ただ本能のままに発散し、各々の花(ネオ・トージョーの構成員)が儚く散りゆく様は、狂い咲き散る桜の様です。

そして、再び咲くことは恐らく、無い。それは死ぬことが無くとも、二度と取り戻せないが輝きです。

アメリカに侵略されゆく日本

本作品では序盤に欧米かぶれのスケートボーダーや、麻薬を密売するブローカーなど日本やその文化を汚す者たちを、ネオ・トージョーの3人が本能のままに彼ら独自の正義を執行していきます。

私はあまり政治には興味がありませんが、敗戦国である日本が先進国にまで成長した現代において、実はアメリカに侵略され続けているという点については、実に納得のいくものです。

伊藤計劃の『虐殺器官』においては、戦争が産業化され、戦争が正義の執行として行われる様がSFタッチで皮肉に描かれていました。

本作品もまた、(良し悪しは別問題として)名実共に世界政府であるアメリカを、ある意味では強烈に批判している作品と読み取れます。

小説の世界であれば、人が生きるも死ぬも、作家の気持ち一つで何とでもなるのでしょうが、終戦(敗戦)70年を迎えた日本が、かつて戦争を経験し、かつて先人たちが経験した痛ましい記憶を、今を生きる私たちは忘れてはいけない、そんな風に感じました。

チラッとだけ見たことのある映画版と原作(本作品)とでは、全くテイストが異なります。

なお、前述の通り私は政治には全く興味がありませんので、本記事は、右翼だとか左翼だとか、そういった事へ言及するものではない事を、念のためお断りしておきます。

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