アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融、人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『タイタス・アンドロニカス』シェイクスピア/特別な悲劇をあなたに。

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実はシェイクスピアの作品を読むのは、本作品が初めてです。

当然、著者の名前だけに留まらず、数多く残された不動の作品たちの名前は認識しています。しかし如何せん、作品が多すぎて何から読めば良いのか分かりませんでした。

そんな私の助けになったのが、当ブログでも要所で言及しているアニメ『PSYCHO-PASS』でした。名門お嬢様学校に通う、残虐な女子高校生芸術家・王陵璃華子(おうりょうりかこ)編で、シェイクスピアの中でも特別に残酷な作品と紹介されたのが、『マクベス』と本書『タイタス・アンドロニカス』。

Wikipediaで触りだけ調べてみたところ、「シェイクスピア全作品中、最も残虐で暴力に溢れている」とあり、買わずにはいられませんでした。喜劇も好きですが、同じくらい悲劇も好きなのです。

劇作家、ウィリアム・シェイクスピアの作品を、小説と称して良いものか少々悩みますが、当ブログでは小説として扱う事にします。

ローマ将軍タイタス・アンドロニカスは、捕虜であるゴート人の女王タモーラの長男王子を殺して、戦死したわが子たちの霊廟への生贄とする。これを怨んだ残る王子二人は、一転ローマ皇帝妃となったタモーラの狡猾なムーア人情夫、エアロンと共謀。タイタスの娘ラヴィニアを襲って凌辱し、なんとその舌と両手を切断してしまう。怒り狂うタイタス…―血で血を洗う復讐の凄惨な応酬。その結末は!?シェイクスピア初期の衝撃作。

ミステリやホラー作品に馴染みがあってもゾッとする

作品紹介の引用にあるように、息を吸うように罪を重ね、その息を吐くように人が死ぬ。

ミステリ作品やホラー作品などは特に顕著ですが、フィクションの中では人の死というものは、経緯はどうであれ欠かせないファクタとなっています。

そういう意味では、フィクションに普段からの馴染みのある読書家にとっては、人の死や危険など現実世界(リアル)では滅多にお目にかかれないタブーは、むしろ本の中の世界では極めて普通の日常と言えます。

今年に入ってから(2015年5月27日現在「読書メーター」の記録によれば)48冊の本を読みましたが、中には凄惨な描写の作品も少なからず有りましたが、それらの作品と比較しても、比べ物にならないくらい残酷で特別な悲劇と言えます。(もちろん、その多寡で優劣が決まる訳ではありません。)

本では聴こえない死に行く者たちの声

本書の解説ページでも言及されていたのですが、とにかく多くの人が死ぬ本作品では死にゆく登場人物の声は、さんさんと輝く眩しい太陽から突然の夜となり、ライトが一転ブラックアウトしたかのように全く有りません。しかも、あっさり呆気無いものです。

ゴートの女王「タモーラ」とその情夫「エアロン」の策略から、殺されてしまった者への鎮魂より、むしろ陵辱されて腕を切り株にされてしまった「タイタス」の娘「ラヴィニア」など、生殺しにされた生ける者への執着こそが、更なる悲劇を生む怒りと混沌の原動力になっている気がしてなりません。

黒ってのはな、ほかのどんな色より上等なんだ、
ほかの色に染まるのはごめんこうむる。
白鳥の黒い脚を見ろ、大海原の水をありったけ使っても
ぜったい白くはならない、
四六時中潮にひたして洗っても無理だ。(128ページ)

ローマが舞台の作品ですが、ローマに尽くした英雄である「タイタス」が国に牙を向く様や、ムーア人「エアロン」の肌の色など、現代でも問題視されそうなテーマが数多く散在している事など、短く淡々と進む脚本の中にどす黒い深い闇を見られます。

脚本の様に書かれた文章が目の前の想像力を高める

ファンファーレで始まる舞台設定と、登場人物の太字の横に続くセリフ。

戸惑いを覚えた幼い日以降読書を通じた日常で、連々とページを埋め尽くす、膨大な活字の海を泳ぐ事にすっかり慣れてしまった今でも、横書きの文章やプログラムの仕様書などを眺めると、無意識で小説を読むようなリズムを保つ事は難しく思います。

本作品はあたかも、これから劇の練習をする人に向けた台本の様な構成になっており(本作品に限らずシェイクスピアの作品はだいたいそうだと思いますが)、ページの浅い読み始めのうちは戸惑いを隠せません。

しかし、登場人物のセリフが9割を占める構成と、舞台設定を思わせる文章を目で追っているうちに、本の向こう側に自分だけの舞台が見えてくる事が分かります。

演劇には全くの門外漢である私にとって、これは新しい体験でした。

シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)

今週のお題「最近おもしろかった本」に寄せて。

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