アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融、人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『砂漠』伊坂幸太郎/青春の光と闇の中に社会の乾きと奇跡を見出す

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ブログのコメント欄で教えていただいて、手に取った本です。

これまでに感じていた、伊坂幸太郎という作家の印象に変化をもたらす作品でした。伊坂幸太郎ファンなら、必読の作品と言えるかもしれません。

仕事の都合で読了までに少々日数がかかってしまいましたが、時間で換算するとあっという間に読んでしまいました。

入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

鳥瞰型の僕、鳥井、そして苗字に方位を冠する友人

冷静な主人公・北村、陽気な親友・鳥井、熱い変人・西嶋、超能力者・南、無愛想な美人・東堂。

時間を持て余す大学生の娯楽というと、麻雀。

私は大学時代に麻雀に熱を上げた事はありませんが、会社の同期に麻雀のし過ぎで留年した経歴を持つ友人が居たため、夢中になる人はのめり込んでしまうのでしょう。

東西南北の方位を持つ大学生4人と、主人公の親友・鳥井が1つのグループになったのには、方位が完成するという単純な理由で集められた麻雀です。

一人だけ苗字に方角を持たない鳥井ですが、西嶋の言う「砂漠に雪を降らせる」ための重要な人物となっています。

方位と季節を巡る大学生活

そして印象的なのが、本作品が春夏秋冬ごとに章が区切られ、そしてまた春が訪れる、という作品の構成です。

方位を持つ誰がどの季節に当てはまるのか、そこまで考えて作りこまれた小説なのかは分かりません。しかし、敢えて登場人物に季節を割り当てるのならば、以下のとおりかと。

  • 春=超能力者・南(女)/超能力者というトンデモ設定にも関わらず、奥手で優しいイメージ。
  • 夏=熱い変人・西嶋(男)/です・ます口調で熱く戦争と大統領を避難し、平和(ピンフ)を目指し暑苦しいので。
  • 秋=冷静な主人公・北村(男)/鳥瞰型で物事・出来事を、まるで鳥が空から様子を観察するように冷静で、落ち着いているので。
  • 冬=無愛想な美人・東堂(女)/とにかく無愛想で、それでいて不器用な、道行く誰もが振り向くほどの美人は、氷の美女のイメージ。

これは季節がそれぞれ異なる顔を見せるように、異なるそれぞれの学生の、読了後の印象です。

また、名前に方位を冠しない重要な登場人物として象徴的な重要なテーマは以下の通りと考えます。

  • 北村の親友・鳥井(男)=春夏秋冬と東西南北の中心人物
  • 北村の恋人・鳩麦さん(女)=砂漠の中心人物

鳥井の重要性

巡り巡る春夏秋冬と東西南北。

物語の設定だけを見ると、何だか鳥井だけ除け者の様に思えてしまいますが、全ての中心は鳥井にあり、ある意味鳥井が主人公の物語とも言えます。

そういう意味では、主人公の北村は、どちらかと言うと物語の語り部に落ち着いてるとも言えます。

ただし、本書のタイトルにもなっている『砂漠』は端的に言えば、やがて大学を卒業すれば殆ど誰もが訪れる「社会」の事を指しています。

そして、砂漠の中心人物の鳩麦さん(敢えて”さん”付けにしています)と主人公・北村の関係が、どこにでも居る普通の恋人同士のようで、やがて終わる学生生活に随分早いうちから付箋を貼っている事が分かります。

ですので、大学生が中心となる本作品は、単純な青春小説とは言い切れないテーマが有るとも言えます。

クセになる僕こと北村の言葉遊び

本作品をより印象的にしているのが、主人公・北村がきりの良いところで多用する「なんてことは、まるでない。」というフレーズ。

めまぐるしく変化する目先の物事に、物語が急展開…!?しないのです。

しかし、このフレーズ、実にクセになります。ギャグ小説では決してありませんが、思わず口角が上がってしまい、時には声に出して笑ってしまったり、シュールに感じたりもします。

先日読んだ『ラッシュライフ』に出てくる、泥棒・黒澤の泥棒美学のような、思わず真似したくなるようなフレーズで、鳥井が主人公であってもおかしくないような本作品の主人公が、北村足らしめるのも、この癖になるフレーズが一役買っています。

【総合的な感想】社会人だからこそ読みたい作品

本作品は、上記の通り魅力的な登場人物が、様々な事件に巻き込まれ(自分から飛び込み?)、成長、あるいは成長のようなものを感じさせる物語になっています。

和気あいあいとした大学生活では決して無く、それでもタイトルの『砂漠』という枯れ果てた水もない絶望的な話し、という訳でもありません。

私も大学を卒業して今年で6年が過ぎ、社会人としては新人ではなくなり、これから30代を目前とした、青春を語るには少々時間が経ちすぎたと思います。

それでも、若者が中心となる物語は年を重ねる毎に輝きを増して見えます。

「伊坂幸太郎は村上春樹の影響を受けたのでは」と、しばし話題になるそうですが、以前は何故そんな話題になるのだろう、なんて思っていましたが、本作品を読み終えて、少し伊坂幸太郎の印象が変わりました。(もちろん、良い意味で。)

『砂漠』とは「社会」を指していると、文中で触れましたが、一度社会に出た社会人としての目線で読むと、意外と深いテーマが見つけられるかもしれません。

砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

今週のお題「最近おもしろかった本」に寄せて。

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