アイスハート

一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『ジョニー・ザ・ラビット』東山彰良/ハードボイルド過ぎるこのウサギがすごい!

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近所の本屋さんで平積みになっていたのが気になっていた本書。

でも読みたい本は他にもあるから、と気になっていたものの、一度は買わずにスルーしました。

しかし、地元に帰った際にまた平積みにされているのを見かけて、はいはい分かりました、という具合についに買ってしまいました。

マフィアのドンに飼われ、雄としての誇りを胸に生きてきたジョニー・ラビット。いまはシクラメン通りに探偵事務所を構える彼のもとに、行方不明の兎の捜索依頼が舞い込んだ。兎の失踪なんて珍しくもなんともない。だが、単純なはずの事件は思わぬ展開をみせ、やがてジョニーは仇敵の待つ人間の街に―。ユーモアとペーソス溢れるピカレスク・ハードボイルド。

花は桜木、男はジョニー。

妙にこのセンテンスが頭から離れません。

本書の主人公は、マフィアに飼い慣らされたウサギなのですが、このウサギ、実はただ者(ウサギ?)ではありません。

世にも奇妙な、ウサギの本能はそのままに、その精神は純血マフィアーソという、なんともハードボイルドなウサギです。

漢字の漢と書いて『おとこ』と読む

人間が動物と違いのひとつに、理性という便利な(時として不幸な)ブレーキがあるという点が上げられます。

ウサギというと何を思い浮かべるでしょうか?

  1. もふもふ
  2. ニンジン
  3. 縦長の長い耳
  4. 淋しがり屋
  5. 性欲が旺盛(プレイ・ボーイ)

私はウサギを飼ったことがありませんので、その詳細な生態はよく知りませんが、おおよそ思いつく限りの動物としてのウサギの全てを、ジョニー・ラビットはウサギの本能として生まれ持ち、更に人間語を理解してウサギ語で人間へ語りかけます。

しかも、純血マフィアなハードボイルドな漢(おとこ)の流儀で。

どこかで聞いたことのあるギャング用語

あまり著者の事を詳しく知らないのですが、本書にはギャング映画などに詳しくない(そもそも映画を年に1回見るか見ないか、程度の)私にも分かるギャング用語(?)が、ところどころで見受けられました。

いくつか上げると、以下のとおり。

  • ラッキーボーイ・ボビー(ラッキー・ルチアーノ?)
  • ボルサリーノ(マフィア御用達のハットブランド)
  • マンシーニ(ヴィンセント・マンシーニ)
  • カンツォーネ(音楽)
  • グラッパ(酒)

物語の中でも引用されているのですが、著者は映画『ゴッドファーザー』がよっぽど好きなんでしょう。

再会の樹(原子力発電所)へのアゲインスト

マフィア精神のウサギがハードボイルドに事件を打開していく本書の物語。

ただ、並々ならぬテーマが裏側にはあります。

それが、ウサギの世界では再会の樹と呼ばれる、人間が作った原子力発電所への抵抗(アゲインスト)です。

福島の原子力発電所の事故、あるいはチェルノブイリの教訓を現代に活かそうとしない、長期的なリスクを勘案せず、その場限りの損得勘定でしか物事の判断ができない人間たちへの報復が、ジョニーという一匹狼(ウサギ)の個人的な復讐の過程から垣間見えます。

そんな小難しいことは考えなくとも、純粋で滑稽なハードボイルド小説として楽しむこともできるのですが、そんなテーマを随所から感じさせられます。

ジョニー・イン・ザ・スカイ

ウサギとしての本能を隠せず、漢(おとこ)としての義理と人情、そして友情という、なかなか男くさく、どこか憎めないジョニー。

その生き様は、マフィアそのもので、実に味わいのある物語の締めくくりでした。

初めはあまりに下品で思わず笑って本を閉じてしまいましたが、不思議と次へ次へと誘う、疾走感ある物語が魅力的でした。

主人公が動物というテーマは、夏目漱石の『我が輩は猫である』があまりに有名ですが、それを思い出させない独自の世界が実に面白かったです。(しかも著者は台湾出身というから、余計にユニークですね。)

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