アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融、人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『短編工場』/1冊で小説が12倍も楽しめて、おすすめ!

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とても良い本に出会えました。

12人の作家の12の作品が1冊の本に集約された本書。少し前に買って、しばらく積ん読になっていたのですが、もっと早くに読んでおけばよかった、というのが正直な気持ちです。

音楽のオムニバスアルバムというのは、数多くあると思いますが、小説のオムニバスというのは少し珍しいんじゃないでしょうか。

読んだその日から、ずっと忘れられないあの一編。思わずくすりとしてしまう、心が元気になるこの一編。本を読む喜びがページいっぱいに溢れるような、とっておきの物語たち。2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から、とびきりの12編を集英社文庫編集部が厳選しました。

短編ではありますが、現代作家の作品にまんべんなく触れる事ができます。

1.『かみさまの娘』桜木紫乃

占い師の母(かみさま)を持つ娘の、母との別れから始まる少し不思議な物語。

桜木紫乃(さくらぎ・しの)
1965年生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。07年、受賞作を収めた短編集「氷平線」でデビュー。12年「ラブレス」が直木賞候補となる。その他の著書に『風葬』『凍原』『恋肌』『硝子の葦』『ワン・モア』『起終点駅(ターミナル)』などがある。

物語の中で、何度かカミュの『異邦人』を引用していることが印象に残りました。

私は、あまり海外文学に明るくなく、『異邦人』はまだ読んでいません。もし、読んでいれば異なる観点で読めるかもしれませんが、そういった予備知識無しでも楽しめます。

2.『ゆがんだ子供』道尾秀介

駅のホームでゆがんだ子供と出会うサラリーマン。ゆがんだ子供が3つ問題を出す。質問は許されない。1つも正解できないと…。

道尾秀介(みちお・しゅうすけ)
1975年東京都出身。2004年『背の目』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、10年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、11年『月と蟹』で直木賞を受賞。その他に『向日葵の咲かない夏』『光』『ノエル』など著書多数。ジャンルにとらわれない多彩な作品の中で、人間の繊細さを丁寧に描き出し続けている。

まるで星新一のような、ショートショートな物語。

全体を通して一番よくわからなかった作品(失礼)。ミステリーなのか、ホラーなのか、ジャンルもよく分かりませんが、なんとなくフランツカフカの『変身』を彷彿させられました。

あまりに物語が短く、道尾秀介の作品は今回が初めてだったため、他の作品はどのような物語なのだろうか、という興味が湧きました。

3.『ここが青山』奥田英朗

会社が倒産した。主夫として生活を送ることとなった夫の日常的な物語。

奥田英朗(おくだ・ひでお)
1959年岐阜生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、97年『ウランバーナの森』で作家デビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞、04年『空中ブランコ』で直木賞、07年『家日和』で柴田錬三郎賞、09年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。犯罪小説、家族小説、青春小説、ブラックユーモアなど多彩なエンタテインメント小説を発表しつづけている。

主夫、というと何年か前に阿部寛が演じるTVドラマ『アットホーム・ダッド』を思い出します。

奥田英朗というと、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』などの精神科医・伊良部シリーズのイメージが非常に強かったのですが、こういったホッコリとする家族ものの物語も悪くありません。

4.『じごくゆきっ』桜庭一樹

大人びた女子高生の私は、子供じみたみんなのアイドルである副担任の女教師と駆け落ちをする。

桜庭一樹(さくらば・かずき)
1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015年隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題)でファミ通エンタテインメント大賞に佳作入選。<GOSICK>シリーズ、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』などが高く評価され、注目を集める。2006年刊行の『赤朽葉家の伝説』で日本数理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。その他の著書に『荒野』『製鉄天使』『ばらばら死体の夜』『伏 贋作・里見八犬伝』などがある。

私が青春を共にした、おすすめの小説ランキングベスト50の、はてなブックマークのコメントで桜庭一樹の作品が入っていないのが不思議、とのコメントを頂いたのですが、桜庭一樹の著書には本作品で初めて触れました。

あらすじにも書いたように、ちょっと百合っぽいストーリーなのですが、独特な言葉づかいと、物語の設定がユニークで、ぐいぐい物語の中に引き込まれます。

いま、他の著書を最も読んでみたい作家の中のひとりです。

5.『太陽のシール』伊坂幸太郎

あと3年で小惑星が地球に衝突する。子供に恵まれない夫婦が下した決断とは…?

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)
1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、『死神の精度』で日本推理作家協会賞(短編部門)、08年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞、山本周五郎賞を受賞。その他に『重力ピエロ』『週末のフール』『フィッシュストーリー』『あるキング』『PK』『夜の国のクーパー』など著書多数。

SFチックな世界観。

伊坂幸太郎の作品は、タイトルを見るだけで思わず手に取り、読みたくなる本が多く、本作品もタイトルを見たときからどんな物語なのだろう、とワクワクしておりました。

これまで、著者の作品を2つ読んでいますが、短編であっても物語がとても綺麗にまとまっています。

6.『チヨ子』宮部みゆき

給料が良いとの理由で日雇いのアルバイトに応募した私。ウナギの着ぐるみを身にまい、私が見たものは…。

宮部みゆき(みやべみゆき)
1960年東京都生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。92年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、93年『火車』で山本周五郎賞、97年『蒲生邸事件』で日本SF大賞、99年『理由』で直木賞を受賞。『模倣犯』で2001年に毎日出版文化賞特別賞、02年に司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞文学部門をそれぞれ受賞。07年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。著書多数。

タイトルから、家族小説なのかなと思っていましたが、やっぱりファンタジーものでした。

読み始めはミステリーのような雰囲気がありましたが、読み進めるうちに、だんだん暖かい気持ちになります。

7.『ふたりの名前』石田衣良

親が子供の服のラベルに書くように、何でも自分物に自分のイニシャルを書くカップル。そんな二人の元に新しい家族が…。

石田衣良(いしだ・いら)
1960年東京都生まれ。成蹊大学経済学部卒業。コピーライターを経て97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。このシリーズはドラマ化されて話題に。2003年『4TEN フォーティーン』で直木賞を、06年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞を受賞。その他に『娼年』『スローグッドバイ』『1ポンドの悲しみ』『逝年』『6TEEN シックスティーン』など著書多数。

石田衣良というと、クイズ番組やテレビ番組のコメンテーターというイメージが強いのですが、こちらも心温まる物語でした。

自分のものには必ず、自分のイニシャルを入れるなんて、まるで子供のような主人公ですが、そういった主人公の特徴というのは有りそうで無かったユニークなものですが、何より物語が良かったです。

読んでいる途中、少し泣きそうになりました。

8.『陽だまりの詩』乙一

死に至る病原菌が蔓延する世界。僕はもうじき死ぬだろう。僕をお墓に埋葬して欲しい。そのために君は作られた。

乙一(おついち)
1978年福岡県生まれ。96年『夏の花火と私の死体』でジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞してデビュー。その他に『暗黒童話』『ZOO』『GOTH』『失はれる物語』『銃とチョコレート』『The Book』『箱庭図書館』など著書多数。別名義でも小説を発表している。

『ZOO』に収録されている短編。

これまでに何度も読み、その度にボロ泣きをしてしまう作品です。

新幹線のホームで読んでいたのですが、物語の内容も結末も全て知っているのに、やはり泣いてしまいました。私にとっては、数ある乙一の作品の中で特にお気に入りの作品です。

9.『金鵄のもとに』浅田次郎

所属していた部隊は、俺を残して壊滅した。死ぬ物狂いで帰ってきたお国で、俺の部隊の生き残りと偽証し、米兵から哀れみを買う傷痍兵士が目にとまり、怒りがこみ上げるが…。

浅田次郎(あさだじろう)
1951年東京都生まれ。95年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、97年『鉄道員』で直木賞、2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、06年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞と司馬遼太郎賞、08年『中原の虹』で吉川英治文学賞、10年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞で受賞。その他に「天切り松 闇がたり」シリーズ、『プリズンホテル』『蒼穹の昴』『シエエラザード』『オー・マイ・ガアッ!』『降霊会の夜』など著書多数。

昨年亡くなった、高倉健が演じる日本の名作映画『鉄道員(ぽっぽや)』の原作者の作品です。

敗戦後という舞台設定で、短編ながらも、なかなか難しい作品でした。ただ、それでも物語を私なりに理解したく、連続で2回読み返しました。

これまでの作品のように、ほっこりするような物語ではなく、哀愁漂う物語です。

10.『しんちゃんの自転車』荻原浩

真夜中にしんちゃんが自転車に乗ってやってきた。池の祠を見に行こう。祠の中には何があるのかを確認しに…。

荻原浩(おぎわら・ひろし)
1956年埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒業後、コピーライターを経て、97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。05年『明日の記憶』で山本周五郎賞受賞。その他に『なかよしの小鶏組』『さよならバースデイ』『千年樹』『花のさくら通り』など著書多数。

序盤からホラーっぽい不気味な雰囲気がありましたが、どこかノスタルジーで昔話のような雰囲気があります。

なんとなく、頭の中に浮かぶのは、日本昔話に出てきそうな少年・少女。

11.『川崎船』熊谷達也

手漕ぎの漁船はもう古い。小さい頃のガキ大将の家は漁船にエンジンを積むらしい。意地でもエンジンは乗せないと言い張る父。反発する息子。

熊谷達也(くまがい・たつや)
1958年宮城県生まれ。東京電機大学卒。97年『ウエンカムイの爪』で小説すばる新人賞、2000年『漂泊の牙』で新田次郎文学賞、04年『邂逅の森』『銀狼王』『バイバイ・フォギーデイ』など著書多数。最新刊は『光降る丘』。

とある漁師一家の物語のため、登場人物の名前がよく似ており、東北訛り(?)で書かれているため、他の作品と違い、読み進めるのに苦労しました。(本作品も連続で2回読みました。)

漁船、というとなんとなく小林多喜二の『蟹工船』みたいな物語なのかな、と勝手に想像しておりましたが、本作品の内容はザ・男の世界でした。

物語の終盤には全ての付箋が拾われるので、鳥肌ものです。

12.『約束』村山由佳

小学3年生になり、生涯の友達が3人できる。しかし、そのうちのひとりが原因不明の病に倒れる。治療方法も無く、日に日に衰弱していく彼を救うために、秘密基地でタイムマシーンを作る。全てをあきらめたやつものとに、奇跡は起こらない。完全な0でなく0.000001パーセントでも成功するかもしれないから…。

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ。立教大学卒業。93年『天使の卵-エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞、09年『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞をトリプル受賞。その他の著書に人気シリーズ「おいしいコーヒーのいれ方」、『放蕩記』などがある。

村山由佳の作品に初めて触れました。

なんとなくタイトルから、恋愛小説かなと思ってい敬遠していたのですが(理由は割愛しますが、私は恋愛小説は苦手です。)、青春・・・とはまだ言い難い、小学生の友情小説でした。

過去を語るかのようにはじめる書き出し、と最後の締めくくり、数々の作家の作品の掲載されている、本書の締めくくりにふさわしい作品です。

まとめ

繰り返しになりますが、非常に良い本と出会えたと思います。

集英社というと、週刊少年ジャンプという先入観がありますが、漫画ばかりでなく、こういった小説としてエンターテインメント性に長けた作品集をもっと出版してほしいな、と。

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