アイスハート

あの時、凍った私の心。炉心溶融、人を愛す心はいつ溶るのか。傷だらけの一片氷心の日常。

『運のつき』養老孟司/例外なく人はいつか死ぬ。死と人生について考えつめる。

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先日実家に帰った際、本棚に積み上げられた本書『運のつき』が目に止まりました。

いつ購入したのか、読了したのかさえ怪しかったので、積ん読状態で放置されていたのだと思います。

養老孟司といえば、大ベストセラー『バカの壁』を思い出す人も多いと思います。私も当時『バカの壁』を読みましたので、別の著書も読んでみようと、当時は深く考えずに買ったのだと思います。

鬼畜米英で育ち、安保闘争、大学紛争の嵐を経験した著者は、戦争か平和か、非常か日常かと真剣に考えつめて〈日常〉を選んだ。学問をすることは飯を食うのと同じ、それを証明しよう。こう決意し、人生の目的は東大で教えることではなく、ちゃんと生きることだという結論に至った……「死、世間、人生」をずっと考え続けてきた養老先生の、とっても役立つ言葉が一杯詰まっています。

人が死ぬのは運のつき

生きるも死ぬも寿命だって、運次第。

なぜか知らないけれど、若いときから、寿命は運だと思ってました。これでも小学校二年生で終戦ですから、子ども心に、生死は運命だと思ってたんでしょうね。頭の上から焼夷弾が降ってくる。あれが私の頭に落ちてりゃ、それでもおしまいですからね。(22ページ)

この考えは概ね正しいと思います。

どれだけ健康に気を使い、不摂生にならないよう生活してきた人でも、交通事故に遭い、運が悪ければそれまで積み上げてきたものは全て水泡に帰します。そういう意味では、ガンになりにくい食生活だとか、習慣なんて、全く無意味です。

「何を根拠に!」と突っ込まれそうですが、これは私の近しい大切な人がそうであったので、長生きするかしないか、には”運”というファクタが確かに存在すると思料します。

大切な人の死に面したことがありますか?

大切な人という言葉で最初に思い浮かべた人は誰でしょう。友達、恋人、親、配偶者、子供、三者三様だと思います。

核家族化がますます進む現代。生涯未婚率も上昇傾向にあるようです。(私もその一端を担うことになりそうです。)

しかし、時代が変わっても、決して変わらないことがあります。

人は生まれて、歳をとって、どこかで病気になって、最後には死にます。まだ私は死んでませんけど、いずれ死ぬでしょう。でもそれは、みなさんも同じです。(12ページ)

どれだけ大切な人も、遅かれ早かれ、いつか必ず死にます。

そしてそれは、私もあなたも決して例外ではありません。相変わらず車も空を飛ぶ予定の無い現代、幸か不幸か、不老不死はまだまだSF世界の夢物語です。

死というものを真剣に、かつ客観的に考えたことがある人は少ないと思います。

あなたは、死について考えたことがありますか?

仕事を辞めれば世界が明るくなる?

流行りもののビジネス書のように、早期退職や、フリーランスを推奨している訳では決してありません。

私は東大医学部に二十八年勤めて、定年の三年前に辞めました。しみじみ楽になりましたね。べつに大学で対して働いた訳じゃないのに、なぜそんなに楽になったのか。
よく書くんですが、三月三十一日に正式に退職して、翌四月一日に外に出た。そうしたら、世界が明るいんです。家の外が保の津に明るく見えたんですよ。ビックリしましたね。世界って、こんなに明るかったんだ。そう思いましたもの。(55ページ)

「東大医学部に勤める名誉教授」なんて肩書、私のようなごく普通の人間からすれば、羨ましくて仕方がありません。勤務し続けたほうが、世間からの羨望の眼差しも得られるし、いいコトずくめなんじゃないの?、と思いましたが、仕事を辞めるという事の開放感というのは実在するようです。

理論と思考の世界で長年戦ってきたであろう、著者が非科学的な事をしたためるほど、仕事から隔離された世界というものは明るようです。

ただ、本書を読み進めると、著者はなかなかの生きづらさを感じながら人生を過ごして来たのだろう、という印象が色濃くなってゆきます。

元・東大名誉教授と読者は行動家ではない?

人の終わりである死、東大紛争、戦争、敗戦、諸外国、様々なテーマから人生について、長らく思考を語られます。

人生について、私はグズグズ考えながら、暮らしてきたわけです。それはクセみたいなもので、いまさらどうしようもないんです。行動家なら、考える前に動いてしまうんじゃないですか。そういう人なら、もともとこんな本を読む必要がないでしょうね。(182ページ)

そして、この一文。どうやら私は行動家ではなかったようです。じゃあ元・東大名誉教授のように思考家なのかといえば、そうでもないのですが。

人は単純な解答を好みます。疑問に対して、きっぱりと。歯切れよく答える。格好いいじゃないですか。でもそれは、たいていウソです。単純で明快な解答がある場合も、もちろんあります。でもほとんどの場合には、「単純で明快な解答があればいいな」という希望なんですよ。(188ページ)

ドキリとする言葉ですね。

今は便利な時代で、インターネットを介してキーワードをGoogleやYahoo!などに放り込めば、自ら思考をしなくとも、大抵の答えが得られます。

諸テーマのまとめ系の記事が多くのシェアされるのも、多くの人にとって答えが含まれていたり、あるいは解答に限りなく近いヒントだったりするからなのかもしれません。

先輩や上司たちよりも役立つ言葉がいっぱい

連々と読んで感じたことを走り書きしましたが、本書は養老孟司という人が本人の人生について綴ったエッセイです。

  • 物語としてどうか
  • ハウツー本のように答えを求める

といった読み方はできません。

しかし、ずっと人間や自分を見つめて生きてきた人の言葉、という意味あいに於いては、とても有り難いものであったり、そういう考え方もあるんだね、とありきたりではありますが、面白い本と言えます。

少なくとも30代や40代で人生を語る会社の先輩、上司なんかよりはよっぽど重みのあるものです。(そういう人たちの人生論に耳を傾ける事も一興ですけどね。)

核家族の家庭で育った、末っ子、一人っ子な人におすすめ。

唐突ですが、私には残念ながら、身近に祖父母の存在の無い家庭で育ちました。

本書を読んで感じたのは、もし幼い私の身近に祖父母がいて、話しをしてくれていたのなら、こういった話し口調なのではないか、というぼんやりとした感覚です。

「〜でしょ。」といった、まるで読者に同意を促すような独特のリズムが随所に見られることも、そういった感触を覚えることに一役買っているかもしれません。

また、著者が歳をとってから『バカの壁』を執筆したら売れた自慢話しが後半からやたら散見されるのも、憎らしくも可愛らしく感じます。

ただし、脳科学やら解剖学やらの話題も出てくるので、昔話をただただ聴くだけの姿勢ではいささか難しいかもしれません。

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